ピロリ菌検査とは?検査の種類やかかる費用も解説
最近胃の調子が良くないのを友達に伝えたら、ピロリ菌の検査を勧められたけれど大がかりな検査になるのではないかと不安に感じている人はいませんか?
この記事では、ピロリ菌検査の種類からかかる費用まで詳しく解説します。
目次
ピロリ菌とは?
ピロリ菌は正式名称をヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と言い、胃炎や消化性潰瘍などの症状を引き起こす細菌として知られています。
ピロリ菌には以下のような特徴があります。
項目 | 概要 |
感染する場所 | ・胃の粘膜 ・多くは粘膜液内にいるが、一部は粘膜を作っている上皮に接着因子(細胞同士を付ける分子)を介して強く粘着する |
感染率 | ・発展途上国では年齢に関係なく感染率が70%~90%と高い ・日本では1950年以前生まれが約40%、1970年代生まれが20%、1980年代は12%と年齢が高くなるにつれて感染率が上昇 ・アメリカでは50歳までに約50%の人が感染 |
感染時の症状 | ・何かしらの症状が起こる割合は20% ・消化不良 ・上腹部の痛みや不快感 |
ピロリ菌が胃の粘膜にいるとしたら、胃酸の働きで溶けてしまうのではないかと考える人もいるかもしれません。しかしピロリ菌は、強力なウレアーゼ活性(ウレアーゼという酵素がアンモニアを生成し胃酸の働きを中和すること)で尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、胃酸から身を守っています。
ピロリ菌に感染するとリスクが高まる病気は以下の通りです。
- HP感染胃炎
- 胃・十二指腸潰瘍
- 胃MALTリンパ腫
- 免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(ITP)
- 鉄欠乏性貧血
将来的な病気を予防するためにも、ピロリ菌の検査を受けるのはとても重要だとわかります。
参考:MSDマニュアル家庭版「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症」
参考:メディックメディア「イヤーノート2023外科・内科編」
ピロリ菌検査の種類
ピロリ菌検査は、胃の粘膜にピロリ菌がいるのかを調べる目的で行われます。ほかにも、検査の種類には次のようなものがあります。
※画像の2枚目を参照
分類 | 項目 | 概要 | 診断精度 | メリット | デメリット |
内視鏡を使う検査 | 培養法 | ・胃の粘膜を採取して48時間以内に分離培養し、4日~7日(発育しない場合は10日)観察をすることでピロリ菌の有無を判定する | ・感度68%~98% ・特異度100% | ・薬剤に関する感受性検査ができる ・菌のタイピングができる ・感染実験ができる | ・検査結果がわかるまで時間がかかる ・診断精度が不安定 |
迅速ウレアーゼ試験(RUT) | ・ピロリ菌がウレアーゼ活性を起こした時にできたアンモニアによるPH変化をPH指示薬で検出し、ピロリ菌の存在を間接的に確認する | (除菌前) ・感度91.0%~98.5% ・特異度90.9%~100% (除菌後) ・感度58.8%~86% ・特異度97.8%~99.2% | ・迅速な診断ができる ・安価で手技が簡単 | ・ウレアーゼ抑制作用のある薬を服用している場合は偽陽性になる場合がある | |
組織学的検査(鏡検法) | ・内視鏡検査で生体検査された組織からホルマリン固定組織標本を作成し、顕微鏡で観察してピロリ菌を確認する | (除菌前 H&E染色) ・感度92%~98.8% ・特異度89%~100% | ・手技が簡単ですべての施設でできる ・同時に胃の粘膜の組織診断ができる ・後日再検討ができる | 他のらせん菌との鑑別が必要 | |
内視鏡を使わない検査 | 血清HP抗体、尿中HP抗体 | ピロリ菌の感染により胃の粘膜に免疫反応が起こり抗体ができるため、抗体を測定して間接的に感染の有無を確認する | (血清抗体) ・感度88%~100% ・特異度50%~100% (尿中抗体) ・感度85%~96% ・特異度79%~90% | ・患者の身体への負担が少ない ・多数例のスクリーニングに有用 ・感染の長期モニタリングに有用 ・休薬しなくてもよい | ・過去の感染も認識してしまう ・除菌後の抗体の低下が遅い |
C尿素呼気試験(UBT) | 13Cという尿素を内服すると、ピロリ菌がいればウレアーゼ活性により二酸化炭素とアンモニアに分解されて呼気中に排泄されるため、呼気中の二酸化炭素の増加を利用して感染の有無を確認する | (ユービット錠の場合) ・感度97.7% ・特異度98.4% (ピロニック錠の場合) ・感度98.5%~100% ・特異度97.9%~100% | ・除菌判定に有用 ・患者の身体への負担が少ない ・簡単にできる | PP2(プロトンポンプインヒビター)という薬を飲んでいると偽陰性になる場合がある | |
便中HP抗原同定 | 胃から消化管を通って排出されるピロリ菌由来の抗原を検出する | (除菌前) ・感度96%~100% ・特異度97%~100% (除菌後) ・感度75%~90% ・特異度96%~100% | ・除菌判定に有用 ・患者の身体への負担が少ない ・簡単にできる | 水様便・消化管出血をした場合感度が低下する |
診断精度のうち、感度とはある疾患を持つ人のうち検査で正しく陽性と診断される割合を指し、特異度とはある疾患を持たない人のうち検査で正しく陰性と診断される割合を指します。
検査内容について不明点があれば、受ける前に医師に質問をし理解してから検査をするようにしましょう。
参考:メディックメディア「イヤーノート2023外科・内科編」
ピロリ菌検査をした方がいい人とは?
ピロリ菌検査を受けた方がよい人の特徴は以下の通りです。
- ピロリ菌に感染した患者・胃がん患者の家族
- 内視鏡検査(胃カメラ)やピロリ菌検査を受けたことがない30歳以上の人
- ピロリ菌の除菌治療後に判定検査を受けていない人
- なんとなくいつも胃の調子が良くない人
判定検査とは、除菌治療をした後に胃の中に本当にピロリ菌がいなくなったかどうかを確認する検査のことを指します。除菌治療は必ずしも1度で成功するとは限らないため判定検査が必要です。
またピロリ菌検査を受ける頻度については、通常1度行えば十分ではあるものの、胃炎などの病気が進行している場合は定期的な内視鏡検査をおすすめします。
ピロリ菌検査にかかる費用
ピロリ菌検査をするには、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
保険適用の検査、保険を適用しない検査、地方自治体の検査、ピロリ菌の検査キットの4つにわけてご紹介します。
保険を適用して検査をする場合
厚生労働省の「『ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて』の一部改正について」という発信では、ピロリ菌検査を保険適用で行うことのできる対象患者について次のように定めています。
- 内視鏡検査または造影検査において胃潰瘍または十二指腸潰瘍の確定診断がされた患者
- 胃MALTリンパ腫の患者
- 特発性血小板減少性紫斑病の患者
- 早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者
この場合はピロリ菌検査に医療保険が適用されるため、自己負担金額(1割~3割負担)のみを窓口で支払えばよいことになります。
対象者の人は保険適用で検査をするのがおすすめです。
保険を適用せずに検査をする場合
医療保険が適用されない場合、自費でピロリ菌検査を行うこととなりますが、かかる費用の目安は以下の通りです。
ピロリ菌検査の種類 | 費用の目安 |
培養法 | 5,000円前後(別途内視鏡検査費用1万円~2万円) |
迅速ウレアーゼ試験 | 4,000円前後(別途内視鏡検査費用1万円~2万円) |
組織学的検査(鏡検法) | 13,000円前後(別途内視鏡検査費用1万円~2万円) |
血清HP抗体、尿中HP抗体 | ・血清HP抗体3,000円前後 ・尿中HP抗体2,000円前後 |
C尿素呼気試験(UBT) | 7,000円前後 |
便中HP抗原同定 | 3,000円前後 |
医療機関によって検査費用は異なるため、詳細は問い合わせをしてみましょう。
地方自治体の検査を受ける場合
地方自治体でピロリ菌検査を無料で行っている場合があります。
群馬県高崎市では「ピロリ検診」を以下のような内容で行っています。
ピロリ菌検査にかかる費用を抑えたいなら、自分が住む地方自治体で検査をしているかどうかを確認してみましょう。
ピロリ菌の検査キットを使う場合
ピロリ菌検査は、市販の検査キットを使って行うこともでき、C尿素呼気試験、便中HP抗原同定など検査の種類も選べます。
かかる費用は3,000円~10,000円程度と幅があり診断精度も異なるため、商品説明を良く確認してから購入するようにしましょう。
参考:厚生労働省「『ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて』の一部改正について(平成22年6月18日)」
参考:厚生労働省「『ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて』の一部改正について(令和4年10月31日)」
参考:高崎市「ピロリ検診」
ピロリ菌検査の流れ
ピロリ菌検査にはさまざまな種類がありますが、内視鏡を使って行う迅速ウレアーゼ試験の流れを例としてご紹介します。
- 事前に外来を受診して検査の予約をする
- 検査前日の夕食は遅くても9時までに済ませる
- 当日は朝食を取らずに医療機関に向かう
- 検査着に着替えて内視鏡検査をする(所要時間は8分~10分程度)
- リカバリールームで休む
- 医師から検査結果の説明を受ける
常用している薬を飲んでよいかどうかは事前の受診時に指示を受けておいてください。
また前日の食事制限をする医療機関もあるため、医師の指示に従いましょう。
ピロリ菌検査後の治療
ピロリ菌検査で感染が見つかった場合、酸分泌抑制薬(胃酸の分泌を抑える薬)を1剤と、抗菌薬(細菌を殺すかその増殖を抑える薬)2剤を7日間投与して除菌する、3剤併用療法が行われます。
治療の内容を初回治療と再除菌治療の2つにわけてご紹介します。
初回治療(一次治療)
初回治療は一次除菌とも呼ばれ、通常次の3剤が用いられます。
- ボノプラザン(P-CAB)40mg/日
- クラリスロマイシン(CAM)400mgまたは800mg/日
- アモキシシリン(AMPC)1500mg/日
3剤併用療法のRCT(医療分野でよく使われる臨床試験の一つで、ある治療法が他の治療法やプラセボ=偽薬よりも効果があるかどうかを確認するために行われる)ではボノプラザン使用時の除菌率は90%でした。
ボノプラザンではなく、プロトンポンプ阻害薬(PPI=胃酸の分泌を強力に抑える薬)に切り替えて1週間投与する場合もありますが、この場合の除菌率は75%前後となります。
ピロリ菌は抗菌薬に対して耐性を持っている場合があり、耐性を持つ除菌薬で治療した場合は除菌率が低下するのを覚えておきましょう。なお、一次治療は、保険適用の治療です。
再除菌治療(二次治療)
再除菌治療は二次除菌とも呼ばれ、一次除菌が失敗した場合に行われる治療法ですが、通常以下の3剤が用いられます。
- ボノプラザン(P-CAB)またはプロトンポンプ阻害薬(PPI)常用量の2倍/日
- メトロニダゾール(MNZ) 500mg/日
- アモキシシリン(AMPC)1500mg/日
ペニシリンアレルギーを持つ患者の場合、治療はボノプラザン(P-CAB)またはプロトンポンプ阻害薬(PPI)、メトロニダゾール(MNZ)、クラリスロマイシン(CAM)の組み合わせで行われます。
初回治療、再除菌治療とも一定の頻度で以下のような副作用があるのも覚えておきましょう。
- 下痢
- 軟便
- 舌炎
- 味覚異常
- ショック
- アナフィラキシー
- 発疹等の過敏症
- 肝障害
- 腎障害
もし副作用への不安があれば医師に事前に質問をしておくのが大切です。二次治療の費用も、一次治療と同様に保険が適用されます。
救済療法(三次治療)
救済療法は三次除菌とも呼ばれ、二次除菌が失敗した時に行われますが、まだ研究段階の治療法です。
通常以下の以下の3剤が用いられます。
- ボノプラザン(P-CAB)
- アモキシシリン(AMPC)またはメトロニダゾール(MNZ)
- シタフロキサシン(STFX)
三次除菌まで行わなければならないケースは稀です。二次除菌が失敗しても治療法方法は存在するため安心してください。
なお三次治療は保険適用外のため、自費でも治療となります。
参考:メディックメディア「イヤーノート2023外科・内科編」
ピロリ菌感染率に関係なく「胃の調子」が良い人の特徴
沖縄県はピロリ菌感染率の割合が他の都道府県と比較しても同じ水準ですが、人口比での胃癌りつが日本一少ない県です。
胃癌が少ない理由の1つとして挙げられるのが「ピロリ菌のタイプの違い」です。
ピロリ菌には欧米型や、東アジア型などがあります。世界の胃がん患者の約60%は日本や中国、韓国などの「東アジア型のピロリ菌が潜伏している東アジア諸国」に集中しています。
しかし沖縄県・沖縄県民には「アフリカ由来のピロリ菌が多いのではないか」とされており、ウズベキスタン人やパキスタン人との遺伝子的な類似があるとされているのです。
これは、6万年前にアフリカから世界中に分散して行った人類旅路の大陸移動(グレートジャーニー)により、沖縄にたどり着いた先祖が関係しているとされます。約2万年に絶滅たと言われている沖縄に存在した港川人(みなとがわじん)が、アフリカ由来のピロリ菌を持っていたことから、その名残で、現代でも沖縄県民は胃癌率が低いと言われています。
胃の調子が良くなくピロリ菌検査を検討されている方は多聞内科クリニックにご相談ください
胃の調子があまり良くなく、ピロリ菌検査をした方がいい人の特徴に当てはまっている場合は多聞内科クリニックにご相談ください。
多聞内科クリニックには消化器内科という消化管(食道・胃・小腸・大腸)や肝臓、胆のう、すい臓の病気を扱う専門科があります。またピロリ菌検査でも行う胃の内視鏡検査の実施件数は、2024年4月1日〜2024年8月27日までの間で259件となりました。
ピロリ菌検査をし、除菌治療で不安を取り除いておきたい人は、次のページもごらんください。
消化器内科 | 高崎市の多聞内科クリニック (tamon-naika.com)
まとめ
ピロリ菌の検査には内視鏡を使う検査、使わない検査などさまざまな種類がありますが、精度やかかる費用をよく確認し、医師の説明を聞いて自分に合った検査方法を選ぶのが大切です。
この記事も参考にして、ぜひピロリ菌検査を前向きに検討してみてください。